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WRITE 2017/08/21/Mon

UI, WORKS - 事例紹介

西部電機株式会社さま – 世界品質の工業製品へ ワイヤ放電加工機操作パネルUI設計・構築

INDEX

西部電機さまは福岡県古賀市に本拠地を置く、工業用の工作機械のメーカーです。主力製品は「CNCワイヤ放電加工機」と呼ばれる、髪の毛より細いワイヤ電極線から放電することによって、金属の塊から精密な部品を作り出すことができる機械。ほとんどの方はその存在をご存じないかと思いますが、身近なところではスマートフォンの部品や、高級腕時計のムーブメントの製造などに使われています。それ以外にも電気自動車のモーターやLED照明など、ミクロン単位の精密さが求められる製品の製造工程に使われており、私たちの日常生活や現代社会に欠かせない“ハイテク”を縁の下で支えている会社のひとつです。

こうしたプロフェッショナルなエンジニアが利用する機械の中でも、工作機械の操作画面は、作業の効率性や表示される情報量は重視されても、そのデザイン(UI)や操作性が注目されることはほとんどありませんでした。しかし、さまざまな場面におけるUI/UX(ユーザインターフェイス/ユーザーエクスペリエンス)が尊重される時代において、工作機械も変わらずにはいられません。西部電機さまで開発の責任者である藤井浩明(ふじいひろあき)さんは、業界においての競合に先んじるために専門家の力を借りることを思い立ち、私たちシルシと運命的に出会うこととなりました。

これまで数多くのUI設計を行ってきたシルシにとっても、工作機械の操作画面UI設計は初めての経験でした。設計する画面(操作パネル)が使われるのはどのような機械で、どのように使うのか、皆目見当もつきません。そこで、藤井さんとの打ち合わせや実際の現場見学を重ねていくことで、デザイン設計(UI設計)を行なっていくことにしました。設計・デザインと平行して開発が始まってからは、オンライン会議システムやビジネスチャットツールなどを使いながら、また、実際に福岡にある西部電機本社へ何度も出向き、私たちのデザインを操作画面に落とし込んで行きました。西部電機さまにとっても、また、私たちにとっても新たなチャレンジだった操作画面のUI設計と新デザインへのリニューアルは、世界最大級の工作機械展示会(JIMTOF2016/第28回 日本国際工作機械見本市)において初のお披露目に成功し、大きな反響を呼びました。


プロが使う機械だから、UI設計にもプロが必要だった

西部電機の精密機械事業部 生産部 放電技術課で課長を務める藤井浩明(ふじいひろあき)さんは「福岡の田舎の小さな会社かもしれないけど、世界に輸出する重要なものを作っている。ものづくりニッポンを支えている、くらいの気持ちでやっています」と自社製品への強い誇りをのぞかせます。

ワイヤ放電加工機のような工作機械は、“マザーマシン”と呼ばれることがあります。なぜなら、さまざまな製品を作るために必要な「金型」を製造することができる、すなわち、ものづくりには必要不可欠な機械であり「あらゆる製品の生みの親」という意味がそこには含まれているから。これには、藤井さんの自負も納得ができます。

その藤井さんが自社のワイヤ放電加工機の操作画面のリニューアルを本気で考え始めたのは、2014年春頃のことでした。こうした最先端の工作機械はコンピュータによって制御されているだけでなく、その操作やデータの入力もコンピュータ上で作動するソフトウェアによって行われます。
そして、ワイヤ放電加工機は、それらの工作機械の中でも特に複雑な操作画面を必要とするものでした。なぜなら、ワイヤ放電加工機は、金属素材の塊から複雑な形状をした部品を作り出す機械なので、部品の元になる形状データは3D CAD/CAM (*) によって作られているから。つまり、操作画面上で3Dグラフィックスを自由に操作できる必要があるのです。

また、ワイヤ放電加工機は、作る部品の形状や素材に応じて、ワイヤの太さや、ワイヤに流す電圧や電流の強さなど、加工時のパラメータが細かく変動していきます。そのため、ワイヤ放電加工機の操作画面は、常に最適なパラメータを導き出すためにデータベースからの検索が必要になったり、その他操作に欠かせない数多くの要素(パーツ)が存在したりと、画面上がどうしても複雑になりがちなのです。しかし、一般的に業務用アプリの操作画面は、デザインが重視されることはまったくと言っていいほどありません。工作機械の操作画面もご多分にもれず、OSの標準的なUIパーツを使った、いわゆる業務用アプリによくある“スタンダード”なものでした。

次世代の工作機械への進化が必要

「それまではOSがWindows CEで、操作画面も我々が自分で作り込んでいたので、Windowsの標準部品を使った味気ないデザインでした。でも、これからの業界の流れは、“操作画面の見た目・操作性をよくする”という方向に向かっているのではないかと感じました。現場も世代交代で若い人が入ってきているので、そうしたインターフェイスの要求は絶対に必要とされるだろうと思いました」 西部電機 藤井さん

次世代の工作機械には、洗練されたデザインをもったマルチタッチが可能な操作環境が必要だ。そう確信した藤井さんは、開発に入ろうとしていたワイヤ放電工作機の新機種に、新しい操作インターフェイスを導入することを決め、その発表を2016年11月に開催される世界最大級の工作機器展示会「JIMTOF 2016」で行うという目標を定めました。

しかし、デザインを重視するといっても、西部電機にはそのノウハウがありませんでした。そこで、工作機械の操作画面を手がけている大手の事業者に相談をしましたが、藤井さんご自身が持っていたデザイン哲学とはマッチせず、またコスト面でも折り合いをつけることができませんでした。工作機械の開発において、2年という期間は決して長くありません。

もし、2年後の展示会に間に合わなければ、競合に先を越されてしまうかもしれない。若干の焦りを感じはじめていた藤井さんは自ら、工作機械のUI/UX開発に協力してくれそうな事業者を片っ端から検索して回りました。その中のひとつが、私たちシルシでした。藤井さんはシルシのウェブサイトを熱心に読み込み、私たちのUI設計やデザインに対する考え方に強く共感し、新しい操作画面のデザインを託す決断をして下さいました。

* 設計から数値制御による加工データの作成までをすべて同じシステム内で行うことができるソフトウェア


新しいチャレンジに肩を並べて挑むパートナーとして

幾度かの打ち合わせやプレゼンテーションを経て、西部電機と私たちのプロジェクトはスタートしました。福岡まで直接出向き、設計する画面を搭載している機械は実際にどのようなもので、どんな風に使うのかを知るところから始まり、UI設計やデザインに必要な要素、工作機械ならではの条件や製造現場の環境など、要件を整理するためのヒアリングや調査を行いました。

また、今回、要件を調査していく中で、「過去の操作体系の継承」という項目を私たちは強く意識することとなりました。工作機械は一度導入すると10年、20年と長期間にわたって使われ続けます。そうした製造現場の従業員にとって、新しい機械(画面)にした途端に操作体系が一新されると、その機械をスムーズに使うことが非常に困難になってしまうということを実感したのです。このような事態は避け、“出来る限り従業員の方々が、これまでの操作と違和感なく使えるようにしたい。“という私たちシルシの強い決意も生まれました。

「『今の画面上の配置と操作体系を継承したい』というのが基本的なコンセプトでした。既存のお客様が、使い方が違うから操作できなくなるということは最も避けたいこと。もちろん、カラーリングにも私のこだわりがありました。SF映画に出てくるような、近未来を想像させるものにして欲しかったんです。とにかく見た目で格好いいな、と思えるものにして欲しい、と伝えました(笑)」  西部電機 藤井さん

また、工場の環境は一般的な家庭ともオフィスとも異なります。そのため、利用されるコンピュータも、通常とは異なる仕様で、高い耐久性を持った特別な製品が使われます。工作機の操作画面も、そうしたマルチタッチパネルと液晶パネルを搭載した専用のモニタに映し出されます。そこに操作画面が表示されたとき、どんなUI/UXとなるか。それも見逃せない要件です。

そういった作業を経て、新しい操作画面のデザインが完成しました。しかし、ソフトウェア開発は、ここからが本番です。シルシが作ったデザインを元に、西部電機の開発チームがコーディングを行います。新しい操作画面は、すべてのUI部品にOS標準のものを使わず、新たにデザインし直したものを使っています。それこそボタンからチェックボックス、ファイルアイコンまで、画面上に表示されるものでフォント以外の画面に表示されるものはすべて新たにデザインしました。

そうやってデザインしたものを、次は西部電機のソフトウェアエンジニアの皆さんに実装していただきました。それは一般的なWebデザインの開発プロセスとはまったく異なるもの。通常のソフトウェア開発ではしないような、細かなUI要素に関わる作業が必要となり、当初は開発期間の見込みが読めないこともありました。

「正直な話、スケジュールはまったく読めませんでした。実は、操作画面のデザインを新しくする以外にも、初めてやることもたくさんあって、3Dグラフィックスの表示に関しても初めて使う技術を採用しました。だから、コーディングをしながら、デザインについても頻繁にやりとりする必要がありました。そこでオンライン会議システム以外にも、ビジネスチャットツールや、オンラインドキュメントツールなど、いろんなツールを教えてもらいながら、福岡と東京で密なやりとりをしながら進めていきました。IT業界に比べると遠隔での情報のやりとりに遅れていると感じるところもあったのため、他業界が使っている最新ツールを知ることも良い刺激になりました」
 西部電機 藤井さん

オンラインだけでなく、シルシのメンバーも実際に5回、6回と福岡への訪問を重ね、西部電機のスタッフと一緒に会議室に籠もって、肩を並べて作業しました。ボタンひとつを取っても、実際には複数のパーツで成り立っているほか、言語も日本以外に中国語、韓国語、ドイツ語、英語と5カ国語に対応する必要があるなど、細かなところでの調整も必要です。その際に、すぐにコミュニケーションが図れることで、大幅に時間短縮につながりました。

2年間という期限がある以上、時間は無駄にできません。遠距離ではありましたが、できるだけ現場に訪れ、一緒に開発に取り組むというのは大きな効果がありました。


競合他社の社長が見に来るほどの成果は、リスクを取ったからこそ

西部電機、そして私たちの努力の甲斐もあり、予定していた2年で無事ソフトウェアは完成にこぎ着けました。藤井さんは「思い描いてものを遥かに越えました」とまで評価しています。さらには「社内での評判もめっちゃ良いです。いつも辛口の営業マンがいるのですが、自信を持って売れると言っています」というお言葉も。

もっと気になるのは、お客様の反応です。ここでのお披露目を目標に掲げていた、「JIMTOF2016」においては、展示ブースにあるデモ機の周りには、常に人だかりができていました。また、多くのご来場者の方からお問い合わせをいただいたそうです。中には

「競合メーカーの方もたくさん見に来られていました。なかには社長がいらしていたところもあります(笑)」 西部電機 藤井さん

さらに藤井さんは「お客さまからは『他の製品と比べて西部電機さんの画面には見たいものがほぼ揃っている』というご意見もいただき、デザインもUI設計もこだわり抜いて良かったと強く思いました」ともおっしゃっています。

2017年4月の受注、そして同年6月からの納入に向けて、これからマニュアルの作成など最終的な準備と、本格的な営業活動が始まります。それに加えて、また“次”の準備も始まります。

「我々のワイヤ放電加工機は、全ラインナップが8機種あり、今回発表したのはそのうちの1機種です。これから、他のものにも新しいデザインの操作画面を乗せ替えていきます。古い機種のユーザーさんからは『いつから新しいデザインが出るの?」と言われています」 西部電機 藤井さん


今回、西部電機さまの新しい操作画面「Smart NC」は、工業機械の操作画面における「大画面かつマルチタッチ」にマッチした操作UIという新しい境地を切り拓きました。おそらく、これから工業用工作機械において、こうした“UI指向”は大きな流れになるでしょう。すでに競合メーカーのなかにも、こうした取り組みを始めているところはあります。しかし、操作性や視認性に加えて、デザインについても細部まで徹底的にこだわっているという点で、「Smart NC」は嚆矢(こうし)となっています。

業界において先鞭を付けたことで、ユーザーの期待は一層高まりました。これに応えるべく、まだまだ西部電機さまの挑戦は続きます。

CLIENT
西部電機株式会社
URL
www.seibudenki.co.jp/
DEVICES
工業機械

SERVICE SCOPE

  • プロジェクト企画
  • ディレクション
  • UI設計
  • クリエイティブ制作

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WRITER : NagaoMacoto